相続が開始すると、当然(何ら特段の行為を要せず)に、被相続人の財産は相続人に帰属します。
財産が当然に相続人のものになるということは、相続人は財産をどのように処分するか決められる権利があるということであり、また民法で定められた法定相続分通りの割合によって機械的に財産を分けることは、物理的にも、そして感情的にも適切でないことが多々あるでしょう。
そこで、相続人間での話合いによって具体的に財産をどのように分けるのかを話合い、その話合いによって決まった内容に沿って財産を分配する手続きを遺産分割と言います。
財産の処分権は、その所有者にあります。
そして、財産の所有者たる被相続人(死亡者)は、その生前中遺言によって自分の財産をどのように処分するか自由に決めることができます。
従いまして、被相続人が遺言を残している場合には遺言の内容に沿った遺産の分割方法が優先されます。
遺産分割協議は、相続人全員が一同揃って行う必要はありませんが(もちろん、一同揃って行うことが望ましいことは言うまでもありません)、一部の相続人を除外した協議は無効となります。
また分割の割合や方法は、遺産の種類や性質、各相続人の年齢や職業等一切の事情を考慮して適切に行う必要があります(民906)。
遺産分割協議は公平に行わなければなりません。
従いまして、相続人が未成年者・行方不明者・認知症であるなど、その意思表示ができない場合や知識や交渉力等の均衡が保てず、公平とは言えない等の状況下においては、その者に代わって協議を行う機関を選任し、適正に分割協議を行う必要があります。
まず、未成年者であっても自ら遺産分割協議に参加して自分の意思を表示することは可能であり、当該協議は無効ではありません。
たとえ法定代理人(親権者または未成年後見人)の同意を得ていなくてもこれは同じことです。
未成年者の法定代理人(親権者または未成年後見人)自身も相続人の一人である場合、当該法定代理人は、未成年者の代理人にはなれません(利益相反)。
この場合には、家庭裁判所への申立により特別代理人を選任し、当該代理人が未成年者に代わって話合いの場に参加する必要があります。
未成年者が数人いる場合、法定代理人(親権者または未成年後見人)はその未成年の子それぞれの代理人となることはできません。
子供達同士の間で利益相反が生じるからです。
この場合には一人の子に対しては法定代理人が代理人となり、その他の子についてはそれぞれ特別代理人を選任する必要があります。
行方不明者に対して財産管理人を置いているときはその者が、置いていない場合には、家庭裁判所への申立により不在者の財産管理人を選任し、この者が行方不明者に代わって話合いの場に参加する必要があります。
尚、行方や所在が不明と言う訳ではなく、生死そのものが不明であり、その状態が7年以上続いている時は、家庭裁判所に失踪宣告を申立て、その審判が下されれば当該生死不明者は死亡したものとみなされて相続人から外れることになります。
かかりつけのお医者さんから認知症、若しくはその疑いがあると診断されている場合は勿論のこと、そのような診断(客観的証明)がなくても、日頃もの忘れが多く、表現が適切ではないですが「ボケてきているかな?」と思われる方が相続人の中にいる場合には、後の無用なトラブル(取消し)を避ける為に、第三者がこの方に代わって遺産分割協議に参加したほうが賢明でしょう。
わが国には成年後見制度というものがあります。
成年後見制度とは、ご本人の判断能力に応じ、その方に代わって法律行為を行う機関(後見人)であり、日頃問題になっている悪質リフォーム被害など、判断能力の衰えた方が不利益を被らないようにご本人をサポートする制度です。
成年後見人が選任されている場合には、後見人がご本人(被後見人)に代わって遺産分割協議に参加する必要があります。
財産を一つ一つ各人に分配する方法で、換価分割(売却代金を分ける)と異なり分割の手間がかかりません。
財産を売却し、その売却代金を相続分に応じて分配する方法で、不動産を換価分割する場合を例にすると、一旦、法定相続分に応じた相続登記をし、売却時に所有権移転登記を行う…など、一定の手間と費用がかかりますが、話合いで決まった割合をキチンと細かく分けることが可能です。
特定の相続人が財産(物)を取得し、他の相続人に対して対価を支払って分割する方法で、財産(物)を取得する相続人は一定の資力が必要となりますが、分けることのできない財産(建物など)がある場合には有効な手段です。
複数の相続人で共有する方法で、不動産を共有分割する場合を例にすると、その不動産を現実に使用するのは誰か?また、売却処分する際には相手方の合意が必要になるなどの問題がありますが、話合いで決まった割合通りに相続登記(持分登記)が可能です。
遺産分割の効力は、相続開始の時に遡って効力が生じることになります。
すなわち、相続開始当初からその通りに相続していたということです(民909)。
しかし、遺産分割協議の内容を全く知り得ない第三者にまでその主張を認めることは、第三者にとっては極めて酷なので、例えば相続財産中の不動産について、遺産分割協議によって法定相続分以上の権利を取得した相続人がいた場合、その相続人は不動産登記を済ませておかないと、協議後にその不動産を取得した第三者に対して、法定相続分以上の権利を取得したということについて対抗できなくなります(最判)。